わたしは、学校卒業後、居酒屋チェーン運営会社に入社しました。初めて店長になったのは、新宿駅東口、歌舞伎町入口向いにあるお店でした。
当時、新任店長がターミナル店舗(渋谷・新宿・池袋・上野といった主要駅の店舗)に抜擢されるのは、異例のこと。わたしは意気に感じ、やる気に満ちていました。
その店では、常連のお客様・アルバイトメンバーに恵まれ、新宿エリアの先輩店長たちにも可愛がってもらい、非常に楽しく、やりがいを持って働いていました。
店長になってから半年ほどたった時、営業部長がお店にやってきました。
「紫藤、来週から、江古田に行ってくれ」
異動の話でした。
わたしは、副店長時代から新宿エリアで働いていました。新宿という街が好きでした。日本で一番忙しい場所で店長をしているというプライドもありました。
なんで俺が、異動しなきゃいけないんだ。俺は新宿で店長やってるんだぞ。
だいたい、江古田って何処だよ?(江古田は有名ですよね。当時東京の地名を殆ど知らなかったのです…)
もう辞めようかな…。
異動の話に納得がいかず、腹が立っていました。
先輩店長はわたしの愚痴を聞いてから、こう言いました。
「紫藤、お前がこの会社で長く働こうと思っているかどうかは知らないけど」
「今回の異動は悪い話じゃない。色んなお店がある。お前はターミナルしか知らないだろ。郊外店だからこそ学べることもある」
「色んなタイプの店を知っていることが、お前の財産になるんだ」
「別れもあれば、出会いもある」
「異動は、新しい人と出会える。それが一番の学びになる」
わたしは、異動を受け入れました。
異動して、良かったと思っています。
わたしは江古田で、「すごく年下で可愛くて、とても気が利き、とても性格が良く、誰からも好かれる世界一の女性」と出会うことになったのです。
その女性とは、私の妻です。
先輩店長が言った、「別れもあれば、出会いもある」というのは、本当でした。
転職が決まり、今までの職場を離れる。
転勤や退職で、一緒に働いていた仲間が居なくなる。
転職することで、寂しく、辛い気持ちになる人もいると思います。
長く働き、愛着のある会社、苦労や喜びを分かち合った同僚であれば尚更です。
わたしもその一人。
今月、わたしの同僚(Bさん)が退職します。
信頼できる大切な仲間であった、大好きなBさんの退職は、とてもショックでした。ですが、人にはそれぞれ様々な事情があります。
Bさんが転職する新しい職場で活躍することを祈ろう。
大切な仲間だったからこそ、そのように考えよう。そう思うようにしています。
Bさんへのメッセージを兼ねて、わたしの好きな本を紹介します。
アメリカの新聞記者ウォシュバンという人が書いた、『乃木大将と日本人』という本です。
古い本です。1913年にニューヨークで出版。日本語訳は1923年に出版されています。
乃木希典の人柄に触れ、Father Nogiと呼ぶに至った従軍記者ウォシュバンが、日露戦争を転戦する乃木の孤影を描いた名著です。
従軍記者たちとの別れの宴席で乃木が言う言葉があります。
「諸君は旅順口で我が軍の人となられた。
それは将来も忘れられないことであるし、今諸君の我が軍を去られるに当って、一言を呈せずにはいられない。
しかし、訣別の辞を呈しようとするのではない。
願わくはお互いの友情を、永久に黎明の空に消ゆる星のごとくにあらしめたい。
暁天の星は次第に眼には見えなくなる。
しかし消えてなくなることはない。
我々は諸君に会わず、諸君も我々に逢うことがないにしても、各々何処かに健在して、互いに思いを馳せることであろう」